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レモンは静かに
ねえ、レモンが熟れたか見にいこうよ
私がそう言うと
君はのそのそ起き上がり
紺色の制帽をかむった
バス停の前の
しなやかな若木
紡錘形の果実が一つ
雨にひっそり打たれている
まだ緑だね
毎朝同じことを言う私
まだ緑だ
毎朝同じことを言う君
レモンがこんなに静かに成って
青い春に熟れるだなんて
レモンはきっと
にぎやかなイタリアの夏に
成ってるばかりと思ってたのに
そうしてレモンは
「裏日本」の雨の春に
静かに熟していった
君はまだ
日向の鳩の匂いがしてた
私は若く、無知で、美しい
獰猛な山猫のようなママだった
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