お気に召しませんか?

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 シャワールームは、廊下の一番奥だった。  一通り見終わった菊子は、「いやぁ、本当に立派なお宅ですね」と、横に並ぶ日向に向かって言ってみた。  日向からは、「そうだね、あにきが建てた家だから」と、またしても棒読みの台詞が読まれるばかり。  それでも菊子は諦めず、日向に話しかける。 「これだけのお家、お掃除するのは大変そうですね」 「そうだね。あ、念のため言っておくけど俺の部屋の掃除はいいから。家政婦さん」 「……はい」  家政婦さん、と来たもんだ。  まあ、実際そうなんだけれども。  廊下を進みながら、前を行く日向の背中を眺め、菊子は、もやもやとしていた。  菊子は思う。  木沙日向。  彼は一体全体どういう人間なんだろう、と。  日向の菊子に対する態度はどうもおかしい。  それは、彼の元々の性格故なのか、それとも、菊子が気に喰わないのか。   どうも、後者らしい気がして菊子はならない。 「あの、木沙さん」  菊子が先に前を歩き始めた日向の背中に向かって言うと、日向は振り返り、立ち止まって「苗字で呼ぶな。俺の事は下の名前で呼んでくれ」と言う。  下の名前で呼んでいいんですか? と思った菊子だったが、本人が言うものだからそれに従わざるを得ない。 「じゃあ、日向さん。あの、違ったら申し訳ありませんが私の事、ご迷惑でしたでしょうか?」  ずばり訊いてみた菊子。 「何でそう思うんだ?」  日向は眉をひそめている。
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