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宣戦布告
「決まりだな」
雨は、ふっ、と笑うと菊子にシャンパングラスを傾けた。
菊子も空のグラスを雨に傾ける。
「ねぇ、シャンパンのお代わり、頼んでも良いでしょ?」
上目づかいに菊子が言うと、雨は「仕方ないな」と言って、カウンター越しにマスターに菊子のお代わりを頼む。
「ふふっ、ありがとう」
菊子は雨に向かって極上の笑みを見せた。
この笑い方はクラブ時代に会得した物だ。
この笑顔で、どんな男もいちころだった。
その笑顔にポーカーフェイスの雨がどうだったかは菊子には知れないが。
あっという間に細いシャンパングラスが菊子の前に、すっ、と置かれた。
「これで終わりにしろよ」
「分かったわよ、ケチ」
菊子にケチ呼ばわりされた雨は、小さく舌打ちをする。
その様子を菊子は楽し気に眺めた。
菊子は、お代わりのシャンパンをちびりちびりと飲んでいた。
酔いが回って非常に良い気持の菊子だった。
そんな菊子に雨が冷静な声色で話しかける。
「菊子、家で家政婦として働くに至って、一つ、約束して欲しいことがある」
「なんですか?」
菊子はシャンパンを口に運びながら軽い口調で言った。
「良く聞けよ、酔っ払い。家で働く以上はビジネスライクな付き合いだ。だから、お互い、絶対に恋愛感情だけは抱かない事」
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