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「ぶはっ!」
菊子はシャンパンを口から吹き出す。
「なななっ、何ですって?」
菊子の酔いは、一気に冷めた。
この男、よりにもよって、何を言ってるんだと菊子は顔を顰める。
「何の冗談ですか?」
冷静な表情を浮かべ訊く菊子に、雨は「冗談なもんかよ」と即答した。
菊子は不愉快を前面に押し出した顔を作り雨を眺めた。
確かに、雨はかなりの良い男であるし、お金持ちだ。
それゆえに、かなりモテていた。
しかし、菊子は今まで一度として、雨にときめいた事は無かった。
何があっても、雨とはあくまでも友達としての付き合いと割り切っている。
そもそも、男として雨を意識した事が菊子には無い。
友達として雨の側にいるのは心地がいいが、それだけの事だった。
「私が、目黒さんと一つ屋根の下で暮らす事で、目黒さんへの恋に目覚める、とでも思っているんですか?」
冷めた口調で訊いてみる菊子。
「別に。そんな事思ってやしないさ」
雨も冷めた口調で答えた。
「なら、そんな約束しなくてもいいでしょう。ちょっとナルシストが過ぎませんか?」
菊子の辛辣な台詞に雨は全く堪えていなかった。
雨は、シャンパングラスを揺らし、余裕の笑みを浮かべてこう言った。
「どうとでも取ればいい。でも、この約束が守れないなら、家では菊子を雇えないよ。自信がないならこの話は無かった事にすればいいさ」
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