ある日のこと

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 2040年 春 「コウタ…お前って本当にすごいよな」  マサキはそう言うと、口の端を吊り上げた。 「別に…。君には関係ないだろう」 「俺は気になるけどな~~。成績優秀。スポーツ万能のクラスの優等生がどうやったらそんな人気者になれるのか」 「…」  マサキはこちらの顔色を窺ってきたが、大きく溜息を吐いて、マサキは僕から顔を逸らした。おそらく何も言わない僕に呆れたのだろう。 「あ~あ。俺もお前みたいになりたいな…」  宙に浮かぶロードバイクが通り去るのを見送ってから道の端を歩きながらマサキは「はあ」と不満を露にする。 「はっきり言うけど、僕はそんなに優秀じゃないし、みんなが僕に夢中になっているのは今だけだと思う」 「それ嫌味か?」 「嫌味じゃないよ。本当の事だよ。君ももっと努力をすればいいだけの事じゃないか。どう考えたってそうだろ?」 「はいはい。そうですよね。俺はお前と違って努力が足らないんだろうな」  こちらに向かってマサキは睨みつけると、マサキは「ケッ」と唾を吐いた。 「マサキ……。君はそういうことするから、女子に嫌われるんじゃないのか?」 「はいはい。どうせ俺はモテませんよ~だ」  僕はやれやれと首を振ると、マサキは左手に装着していたモバイルコンソールを操作して、ナビゲーションアプリを起動した。  マサキは「エリア36」と目的地を告げると目の前にホログラムで矢印が目的地に向かって浮かび上がった。  僕たちは今、女子と待ち合わせをした場所に向かっている。  目の前に浮かぶ矢印を余所に、マサキの態度を見ていると、なんだか呆れてしまって早く家に帰りたくなる。  なぜマサキはそのような態度しかとれないのか僕にはわからなかった。  マサキはカバンから二つに折りたたんでいたスケ―ドゥを取り出し、地面に投げると、スケ―ドゥはマサキの前で宙に浮いた。  今日の空はよく晴れていて、とても空気が澄んでいた。  十五年前に法整備がされてから、空を高速で飛び交って行くたくさんの車が視界に入ったが、そのどれもが二酸化炭素を出していない。  世界中で脱炭素の取り組みが活発になってから日本は地球に優しいクリーンなエネルギー開発を目指した。  そう。空を飛ぶ車はすべて磁力によって動いているのだ。  スケボーのような形をしたスケ―ドゥもその技術が使われており、この時代の移動手段である乗り物はすべてこの技術が使われている。  僕も自分のカバンからスケ―ドゥを取り出して、自分の前に投げる。  僕はそれに足を乗せると、ナビゲーションアプリが示した先に自動的にセットアップされた。  しかし、僕のスケ―ドゥはしばらく地面に浮いていたが、それは次第に地面に浮かばなくなり、地面の上に転がった。 「あれ? 故障かな?」 「おいおい。せっかくさっきメンテナンスしてやったのにもう壊したのかよ?」  マサキがそんな声を上げると、「これ使えよ」とマサキは僕に向かってカバンの中に入っていた予備のスケ―ドゥを渡してきた。 「ああ。ありがとう」  僕はそのスケ―ドゥに乗り、セットアップを完了してから感触を確かめる。  そんな僕らの横をスケ―ドゥに乗った犬が過ぎ去っていった。  ゲノム編集により、動物の遺伝子組み換えによって知能指数が向上した動物だろう。  二十年前から世界で動物にも基本的権利を訴える市民団体が国連に訴え、動物にも人権と同じ権利を持たせようと、世界中で活動が広がった。  そして、十年前から、人間と同じ知能を持った動物が人間社会で活動するようになったのだ。  道ですれ違う人と多種多様な動物。それらのどの顔にも笑顔が絶えない。なんて穏やかで平和な世の中になったのだろうか。  横を通り過ぎて行くロードバイクに乗った人間と鳥は楽しそうに会話を弾ませている。  だが、こちらのまわりには黒くて殺伐とした空気が蔓延していた。  僕たちはスケ―ドゥを動かして、目的地に向かった。
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