ある日のこと

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「でさ? 今日クラスのヨウコがオッケーしてくれたんだよ。お前がいるなら今日一緒に遊びに行ってもいいっていうことだからさ、なあ? だから頼むよコウタ? 俺がヨウコと付き合えるように間に入って取り持ってくれよ?」  信じられない。険悪な雰囲気だったにも関わらず、マサキは女子と付き合えるように約束を取り付けようとしている。 「マサキ……。いい加減にしてよ? 僕はマサキの都合の良い道具?」  スケ―ドゥに乗りながら、後ろを振り返った僕はマサキを睨んだ。 「俺たち友達だろ? コウタは友達のたった一つの願いも聞いてくれないのか?」  僕に自分の要求を押し付けがましく話すマサキをずっと見ながら、自分の中に芽生える困惑を感じた。  なぜ男はこうも女に興味を示すのだろか。高校男児の頭の中は常に女のことしかないのだろうか。マサキの将来が少し心配になってきた。  けど僕は答えることなく、マサキを無視した。  なんだかその光景がおかしく、笑ってしまいそうになる。 「お前? もしかして今の俺のこと心の中で馬鹿にしただろう?」 「いや別に…。僕はそんなこと思っていないよ」  風によって体を揺らしたマサキはこちらに怒った顔を向けて、睨んできた。  当然、相手にしないほうがいいかもしれない。こういう時、相手にする奴は馬鹿のすることだと学んだ。思っていないふりをして、顔を彼から逸らす。  眉間に皺を寄せて、マサキは僕を睨んだ。  カンカンカンカン。  そんな険悪な雰囲気を遮るように上空からフェライト製の踏切のウォールがゆっくり視界いっぱいに広がるように降りてきた。  スケ―ドゥはゆっくり速度を落として、その前で止まった。  スカイトレイン。  時速二百キロで進むことのできるその電車は、音を殺したように、すさまじい速さで僕たちの前を過ぎ去っていった。  マサキは軽く舌打ちをして、「お前、調子に乗るなよ?」 「僕は調子にのったりしない。それはマサキの方だよね? 君の方が気に入らないことがあればよくしてるじゃないか。そりゃ、少しぐらい気にいらない事があれば口に出す事もあるかもしれないけど…、君みたいに僕は進んで人が嫌がるようなことは絶対にしない」 「はいはい。悪かったよ」 「それで? 結局マサキは僕のことが羨ましいのかい?」 「なんだと?」  怒りが顔に浮かび上がったマサキは僕を威嚇するように鋭く睨んだ。 「正直に言いなよ」 「そうか。コウタはずっと俺のことをそういう風に見てきたんだな」 「もしそうだったら?」と僕は少したじろいでしまう。 「ふ~ん」  明らかにマサキは怒っていた。いつの間にか拳も強く握っている。 「マサキ……。人気があるだけじゃ、別に何もいいことないよ?」 「知った口を聞くなよ」 「なら僕も気になる事がある。男に限らず女でも優秀であれば人気者になるのかなと思ったけど違うよね?」 「そんなこと俺にはわからないな」 「ちやほやされるなんてそう長く続かないって」 「女子はコウタみたいに優秀な奴にずっと夢中になっているんじゃないのか?」 「場合によると思うけど、それは好きという感情ではないと思うな」 「へ~。どこからそんな事を聞いたんだよ」 「今までみんなのことを見てきたからそうなのかなと思っただけだよ」  マサキは呆れたような顔をした。 「僕に夢中になっている女子はみんなちょっとしたことで見向きもしなくなるんだって…」 「…」 「マサキは本当に察しが悪いよね。それはつまり内面を見てくれていないってことでしょ。ちょっとしたことでみんなすぐに離れていくんだよ」 「本当にお前は理屈っぽいよな……。理屈ぬきでどうしてもそうしたい時だってあるだろ」 「だからマサキが……」と僕が言おうとしたところで。会話を遮るようにマサキは「ああ~言わなくていいよ。そんなこと今聞いたところで気分が悪くなるだけで、今の俺にはどうでもいいことだ」と吐き捨てるようにマサキは悪態をついた。
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