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先生に相談するべきだろうか、文歌は迷っていた。
ある日の休み時間だった。座っていた文歌の頭に、突然教科書がぶつかって衝撃を受けた。
ふざけていたクラスの男子が投げ合い、それが誤って文歌に命中したのだ。痛みより驚きで硬直してしまい、文歌の目に涙が溜まる。
男子たちが、へらへらとした態度で「ごめん」や「悪いな」と済ませている最中だった。
「黙りなよ。そんな薄っぺらな言葉、聞かせる位なら」
怒りに満ちたハイトーンの声が、男子を叱りつけた。教室の空気が一瞬にして静寂に満ちた。
文歌の目の前に、いつの間にか立ち上がった一ノ瀬さんがいた。
声の主が彼女と分かると、男子たちは口々に文歌に丁寧な謝罪をした。
以来、彼女をからかう姿はなくなった。
透明な心の壁は消えないままに、言葉のないコミュニケーションが、3年間続いたのは二人だけの思い出だった。
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