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「あっかーん……」
レンの部屋に来るなりエイタは頭を抱えて呻いた。長い黒髪をくしゃくしゃとかきむしりながらズカズカと上がり込み、勝手にリビングに居座る。
ドラマーの彼とは同じアナーキーバプテスマクライマックスというバンドでリズム隊を組む仲だが、自宅を占拠される謂れはない。
「何やねん」
一応聞いてみるが、彼はレンの疑問にはお構いなしに咳き続ける。
「もー、どーしょー。あかんわぁ……ホンマやばいし……俺、どーしよおー」
「やから、何やねん」
「あかんねん。困ってんねん。見てわからへんか?」
エイタは無茶な事を言う。いくらなんでもエイタが困っていることぐらい、見ればわかる。レンが聞きたいのはその内容だ、ということにエイタこそ気付かなければいけない。
「わからへんかなぁ」
「わかるて。そんで、何を困っとるんか言いたて来たんちゃうん?」
「そりゃそうに決まっとるやんか」
「それを俺は聞いてんねん。そこまではわからん」
「そーか」
他人事のように素っ気なく返すと、エイタは冷蔵庫を勝手に漁り始める。いつものことと放っておくと、入れっ放しで忘れていた缶ビールを持って戻ってきた。
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