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水筒のコップにご神水を注ぎ、男の霊に向かって勢いよくかけた。男の霊は『あ!』と口を動かして消えた。
「すみませーん! 布巾を貸していただけますか? お水こぼしてしまって」
近くにいた安藤が布巾を持ってきて、床をささっと拭いた。
「すみませんでした」
「いえ、洋服は濡れませんでしたか? お水のおかわりは……あら?」
安藤は、殆ど減っていないグラスの水を見て不思議そうな顔をしたが、他の店員がトレイごと料理を放置していた事に気づき、謝罪してくれた。
「びっくりしましたよね。お客さん、どうしたんでしょうね」
すっとぼけて聞いてみる。
「こんな事が最近多くてね。隣にあの店が出来てからだと思うの。私は怖い思いをした事ないんだけど……お客様がトイレで変な声を聞いたとか、白い影を見たとかね。変な噂が流れたりしたら、それ目的のお客さんが増えちゃうでしょ? 本当に困っちゃう」
ため息をつく安藤の肩にも、何か小さいものが乗っている。いきなりご神水をかけるわけにもいかないし、霊を信じていない人にはあまり害が及ばないのかもしれない。
「はあ。私の憩いの場が乱れていく」
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