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俺くらいの男になると緊張で寝られないなんてことはない。昨夜も8時間しっかり寝て、今朝もきっちり8時に起きた。
シャワーを浴びて清めた身体に香水を振り、髪型もキチッと作った。珠樹さんの要求通りに動きやすい格好、上下とも灰色のジャージ、スポーツブランドでキチッと揃えて抜かりはない。万全に準備を整えて9時40分に出発、9時45分に学校正門前に到着する。
15分前の到着も予定通りだ。ギリギリに着いて女性を待たせるのは論外。だがお化粧直しなどの時間が欲しい女性もいるから、早く着き過ぎるのも考えもの。女性が10分前に来ると考えて、男性は15分前の到着がベストなんだってさ。幼馴染がもたらした唯一役に立つ豆知識だ。
学校の正門前には、1台の真っ白なミニバンが停まっていた。土日でも部活はやってるから、その関係かな? でも門の真ん前に止めるなんて非常識だな。これじゃあ、珠樹さんが来ても俺の姿が見えないじゃん。少しズレて立ってた方がいいだろうか。
「あら、おはよう」
俺の心配は杞憂に終わった。俺の到着から5分後、珠樹さんが姿を現した。何か忘れ物でもしたのか、珠樹さんは学校の敷地内から姿を現したのである。予想外の方向から声を掛けられて少し面食らったけど、待ち合わせに支障が無くなって結果オーライだな。
そんなことより、俺は早くも珠樹さんに見惚れていた。上下とも紺色ジャージ、きちんと有名スポーツメーカーで揃えている。あえて大きめサイズを選んでゆるっとした着こなし。それでも胸だけははちきれそうだから凄いですね。スイカでも入ってるんですか。あとで僕にも食べさせてくださいね。
「早いのね。意外と時間は守るタイプなのかしら?」
「女性を待たせるわけにはいきませんから」
「ふふ、素晴らしい心がけね。それじゃ、行きましょうか」
ちょうど朝の木漏れ日みたいに、ふわっと爽やかに微笑む珠樹さん。そのままひらりと身を翻すと、先に歩き出して俺を導いてくれる。
この可愛い笑顔も、極上の身体も、今から俺の独り占めかぁ。気分が昂らずには居られない。俺は生唾を呑み込みながら、最高の高校生活の第一歩を踏み出す――。
ところが、俺の興奮も長くは続かなかった。
歩き出した珠樹さんが――いきなり、校門の前に停まってたミニバンのドアに手を掛けたからだ。
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