第1章 放課後、熱く求められて。

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「は?」  驚く俺をよそに、半自動のドアがゆっくりと開いていく。スライド扉ってことでかなり乗降口が広いんだけど、俺の口も負けず劣らずあんぐりと開いてしまう。  やがてドアが完全に開き切ったところで、珠樹さんが『おいでおいで』といった感じで手招きして、俺を車の中に導こうとする。 「乗って」 「え、いや、あの、」 「いいから乗れっつってんのよ」  さっきまでの爽やかさはどこへやら、珠樹さんは途端に乱暴になった。最後は腕を掴まれて引き寄せられて、強引に車の中に押し込められてしまう。  すぐに車を降りようとしたけど、それを押し留めるように珠樹さんも車に乗り込んできた。抵抗虚しく、半自動式のドアはゆっくりと閉まっていく。ガチャンという無常なロック音が、外界とまったく遮断されてしまったことを俺に教えてくれた。 「出して」  珠樹さんが運転席に命じた瞬間、車は急発進。完全に腰を下ろしていなかった俺は、尻もちを付くような形で座席に押し付けられる。脱出の機会を完全に失ったまま、とうとうどこかへの移動が始まってしまった。  何が起きているのかいっさい掴めない。情報を求めて、必死に車窓や車の中を見渡してみる。  そして前方に視線をやった時――身体中からいっさいの血の気が引いた。  車の運転手は髪の毛を真ッキンキンの金色に染めている男だった。デッカいピアスが両耳にギラギラ光っている。さらにバックミラー越しに、唇にもピアスを開けていることが確認できた。  助手席にも男が乗っている。こちらは坊主頭で、こめかみに線まで入っている。彼もまた耳たぶに大きなピアスをぶら下げている。眉毛のない顔で俺の様子を窺いながら、気味の悪い笑みを浮かべている。 「あっ、あっ、あのっ、珠樹さん、この人たちは誰ですか、今からどこに行くんですか、あっあっあっ運転が荒いし凄いガンつけてくるし怖い怖い怖い」 「もしも~し。いま矢口くん確保したからそっち向かうね~」  俺が必死になって状況の説明を求めても、珠樹さんは何も答えてくれなかった。それどころか、俺の声を遮るようにスマホを耳に当てると、どこかに電話し始める。  人生で初めてのデートのはずが、まさか拉致されるとは――。車の中、俺は何か悪いことしたっけって必死に考えた。幼馴染の話をちゃんと聞いてやれなかったなって思い出した。うっとうしい奴だったけど、これが最期ってことなら一目くらいは会いたかったなってちょっぴり思った。
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