第1章 放課後、熱く求められて。

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※  車は多摩川沿いをずっと走って、やがてどこかの駐車場に入った。永遠にも思える時間だったが、時間にしたらたったの10分くらいだった。  その間ずっと、珠樹さんはどこかと連絡とり合ってて話を聞いてくれなかった。代わりに、助手席の坊主頭がじーっと俺のことを監視してて……これぞ『蛇に睨まれたワタル』ってか。やかましいわ。  駐車スペースに車を止めると、珠樹さんに『降りて』と促される。よかった、生きたまま車を降りられる。珠樹さんには悪いが、外に出られたら隙を見て脱走を―― 「わあ、矢口くんだ! 本当に来た!」  ドアを出た先で待っていたのは、予想外過ぎる人物だった。  小さい身体にでっかい眼鏡。揺れる三つ編み、弾ける笑顔。どこか小動物をほうふつとさせるその動きは―― 「うのきちゃ……野原、さん?」 「えへ。矢口くん、おはよう!」  まさかの、うのきちゃんの登場である。珠樹さんに車に押し込められて? 男二人に連れ去られて? 車で降ろされた先にうのきちゃん? 何がどうなってんだ? 思考が追いつかない。  そしてよく見ると、出迎えてくれたのはうのきちゃんだけではない。  うのきちゃんの背後で、ひらひら手を振ってるのは――桜さん。珠樹さんと同じメーカー、色違いのジャージに身を包んでいる。  さらに、ヒョロガリくんもいるではないか。こちらは学校指定のクソダサジャージに身を包んでいる。そういえば、うのきちゃんも同じく学校指定のジャージ姿だ。  昨日、生徒会室にいたメンバーが、なぜかここで再び相まみえた。どうも、みなさんお揃いで。お元気ですか? 僕は今の今まで死ぬ思いでした。  何も事態が掴めてない俺をよそに、うのきちゃんはテンションが高かった。『どうやって矢口くんを連れてきたんですか?』なんて、無邪気な瞳で珠樹さんに聞いたりしている。 「ふふふ。テクがあるのよ、テクが」  珠樹さんは得意げに笑いながら答えていた。いやいや、テクじゃなくて力づくだったじゃん。でもそれを言おうとしたら、坊主頭の男に脇腹を小突かれた。こわぃ。ぃぢめなぃで。
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