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「なに、さっきから。うるさいわねぇ」
「うるさいじゃないでしょ!? だって俺、さらわれて、連れてこられて、うのきちゃんとか桜さんいて、試合って言われて、何がどうなって」
「今の説明聞いても分かんなかったの? ここは多摩川緑地、六郷の土手。ここで9人揃えてやることって言ったら、一つしかないでしょ」
「……まさか」
「そう。そのまさかよ」
ここで、珠樹さんはジャージのフロントジッパーを一気に開けた。それだけに飽き足らず、袖から腕を一気に抜き去り、脱いだ上着は背後の金髪男に預けてしまう。
ジャージの下に着ていたのは――半袖のシャツ。ボタンダウンでありながら、襟は付いていない。メッシュ生地で非常に軽い素材でできている。デザインは藍色を基調に、胸にピンクで縁取られた白文字で、大きく『Seiryukan』とロゴが入っている。背中部分には、胸のロゴと同じ配色で、でっかく『1』と番号が振られている。
どこからどう見ても、完全無欠の――野球のユニフォーム。
「今から草野球すんのよ。言ったでしょ? 『アクティブな遊びが好きだ』って」
マズい。マズい。それは非常にマズい。俺の心の非常ベルが全力全開で作動し始める。
高校では絶対に野球をやらないって決めたんだ。放課後も休日も女の子と遊びまくって、かけがえのない青春を謳歌するんだって、心に誓ったんだ。
今日ここで草野球の試合なんか出ちゃったら、毎週毎週人数にカウントされて、グラウンドに引っ張り出されるに決まってる。そんなの、中学時代までと変わらないじゃないか。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。
「あ、あの~……俺、野球は……野球だけは……嫌なんですけど……」
とにかく、断らなきゃ。珠樹さんたちが8人になっちゃって試合が出来なくなるけど、そんなことは俺の薔薇色高校生活と比べたら些細なものだ。なんとしても、ここから逃げなきゃ。離れなきゃ――。
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