第2章 こんなの、ハジメテ。

2/37
前へ
/798ページ
次へ
 『多摩川緑地』は、多摩川に数ある緑地の中でも最大級の大きさを誇っている。実は同じ名前の緑地はいくつかあるんだけど、ここ六郷土手の『多摩川緑地』は他のそれとはまったくスケールが違う。  サッカー場1面。広場が2つ。少年野球場が3面。そして、野球場が――圧巻の16面。いくら多摩川広しといえども、これだけの規模を持つ緑地は他にない。  極めつけは、多摩川緑地と六郷橋を挟んだ向こう側も『六郷橋緑地』と呼ばれる敷地。ここにも野球場が5面、少年野球場が1面ある。二つの緑地を合わせたら、野球をするためのスペースが25面もあるということになる。  ただし。これは多摩川緑地に限らず、全ての河川敷グラウンドに言えることなんだけど――実際は芝生の一部分を内野の形に刈り取って、そこにベンチとバックネットをボンと置いただけの空間。整備も行き届いてなくて、土はデコボコ、マウンドの形はグチャグチャ。『オイ、野球場だぞ。笑うなら笑えよ』と開き直る雰囲気すら漂わせる景色なんだ。  そんな粗悪なグラウンドが25面も転がってるのに、週末ともなると満員御礼。事前に抽選して当選しないと使えないくらいの人気があるんだそうだ。そこまでしてでも野球がしたいもんなのかな。俺にはもう分からない世界だな。  11時に前の団体が退いて、俺たちは『グラウンド入り』した……と言っても、3塁側ベンチの後ろに置いといた荷物を、3塁側ベンチの上に移動しただけだけど。待機場所がない河川敷の球場だと、いつもこんな感じらしいよ。
/798ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加