第2章 こんなの、ハジメテ。

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 10分ほど前、グラウンドの脇で着替えさせられてた時。桜さんは、今日ここに至るまでの真相を全て明かしてくれた。  実は珠樹さん、俺のことを最初から知っていた。『野球部に誘われてるけどずっと断ってる』『入学式の時にスケベな目であっちこっち見てる挙動不審な新入生』という情報を持っていたそうだ。『これは女に誘われたら堕とせる』、珠樹さんはそう確信したそうだ。当たってるよチクショウ。堕ちちゃったよ。  だが、珠樹さんと俺は接点がない。なんとかならないか……と考えていたところ、うのきちゃんが生徒会に入ってきた。ダメもとで聞いてみたら、なんと隣の席同士。こうしてうのきちゃん経由で俺を生徒会室に呼び出し、珠樹さん自ら『デート』に誘ってグラウンドに連れ出す計画が出来上がった。  しかし、今週末はそれでも人数が足らない。ダメもとでうのきちゃんに聞いたら――まさかのOK。友達のヒョロガリくんも巻き込んで参加を表明。これで9人ピッタリ揃って、めでたしめでたし……というのが、ここまでのいきさつだったそうだ。 「まあ、いい教訓になったわね~。女の子のおっぱいとお尻ばっかり追いかけてたら痛い目に遭うって、入学早々分かったんだから~」  垂れた瞳をさらに細めて、カラカラと笑う桜さん。まったくもって言う通りである。美しいバラには棘があるとはよく言ったものだと、心底反省するばかりである……『怖い人に車で拉致される』ということ以上に悪いことがあってたまるかとも思うけど。 「桜、こっちが先攻だってさ」  ここで拉致の主犯格である珠樹さんがやって来る。相手チームの代表らしき人と軽くあいさつした後、試合で使うボールを受け取って戻ってきた。審判が攻撃側の打順が遠い選手が務めるというのが草野球のスタンダードだそうだ。先攻のチームが試合球を受け取るのもそれが理由である。  桜さんの左隣にどっかと座る珠樹さん。昨日までの自分だったら『ハーレムだもの わたる』って喜んだところだけど、今は違う。背後から刺さる視線も二つに増えたんで、まさしく針のむしろだ。
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