第1章 放課後、熱く求められて。

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「ねえ、本当に野球部に入らないの?」  俺の1歩後ろを歩く大塚(おおつか) (ゆき)。その刺々しい語気からして、俺の決断に不満を持っているのは明らかだった。 「だから野球なんてもういいって。しつこいな」  先週あたりからずっと同じ質問、もうウンザリだ。雪が何度も同じことを聞くなら、俺だって何度でも同じ答えを返してやる。  雪と俺はいわゆる幼馴染。家も隣同士だ。だからこうして一緒に登校する羽目になっている。本当は登校時間をずらそうと思っていたのに、コイツは家の前で待ってやがった。墨を吐く寸前のタコみたいな膨れっ面をしていた。ツインテールが足みたいに揺れるから余計にタコに見えた。  そして、出来るだけ早足で歩く俺の後ろにピッタリくっついては、こうやって聞き飽きた質問を並べ立ててくるのだ。タコだけに吸引力が凄まじい。早く目の前の多摩川の流れに乗って東京湾に帰ってほしいんだけど。 「じゃあ、なんで土手高なんか入ったのよ」 「何だっていいだろ」 「良くない。いちおう野球の強豪校じゃない。せっかく地元の高校を甲子園に連れて行ってくれると思って嬉しかったのに」  多摩川清流館高校は、校舎もグラウンドも多摩川のすぐ脇にある。だから地元の住民はみんな『土手高』と呼んでいる。  土手高の野球部は河川敷にだだっ広い専用グラウンドを持っており、そこに100人くらいの部員がひしめき合って練習している。昔から強豪として鳴らしていて、甲子園にも2回出場。今でも東東京大会ならいつでもベスト4くらいには入れるくらいの力はあると思う。  けど、俺が土手高に進学した理由は、もちろん野球部が強いからなんていうチンケな理由ではない。
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