33人が本棚に入れています
本棚に追加
「もっと長く、死ぬまでやってたかった。未練が無いと言えばウソになるけど……仕方ないね。ケジメくらい付けなきゃ」
「……桜さんは、なんて?」
「これから話す。桜だったら分かってくれると思う。……ホントは今日中にアンタ以外の子にも伝えたかったけどね。まあ、アンタに会えたなら来た価値はあったわ」
珠樹さんは机の上に置いてあったトートバッグに手を掛けた。立ち上がり、座ってた椅子を元に戻すこともなく。足早に出入口へと向かう。
「アンタにも迷惑かけたわね。無理やり連れ出してゴメン。これからは土日が空くんだから、好きなだけナンパして、好きなだけ遊びに行けばいいんじゃない」
珠樹さんはいっさいこっちを見ることなく、肩越しにそんなことを言った。頑なに、と言っていいくらい振り向こうとしない。
「じゃあね。またね」
引き戸に手を掛ける珠樹さん。片手で明けようとしたけど、重い上に建付けの悪い引き戸はすんなりとは開かない。仕方なく、トートバッグの取っ手を肩に掛け、両手で開けようとしている。
行ってしまう。珠樹さんが突然別れを告げて、生徒会室を出ていってしまう。
このまま帰しちゃいけない。『またね』がいつになるかもわからない。このまま、珠樹さんが手の届かないところに行ってしまうかもしれない
『大事なものはしがみついて離すな』、母さんの言葉が浮かんだ。いちど壊れたら他人と一緒、とも言っていた。壊したくない。離れたくもない。
今しかない。間に合ううちに、手が届くうちに!
最初のコメントを投稿しよう!