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「矢口くん、ほっぺた真っ赤だけど……。何かあったの? 保健室行く?」
遅刻ギリギリで教室に滑り込むと、さっそく隣席の女子――野原 うのきちゃんに心配された。左隣の彼女には、俺の腫れあがった頬が丸見えなのである。
「ありがとう、うのきちゃ……野原さん。でも大丈夫、大したことないから」
俺は出来る限りのイケメンボイスで無事をアピールする。入学早々クラスメイトに迷惑をかけるわけにはいかない。それに保健室に行ったとして、『ハードラックとダンスっちまいました』くらいしか怪我の原因を説明できないだろう。
「どうしても痛かったら教えてね。無理しちゃダメだよ」
うのきちゃんは深く理由を聞かず、それでいて気遣ってくれる。マジで良い子。最高に優しい。神が俺を土手高に導いたなら、うのきちゃんは神が遣わせた天使かもしれない。どっかの乱暴女にも、うのきちゃんの爪の垢を煎じたお茶を40リットルくらい呑ませてやりたい気分である。
隣の席がうのきちゃんで良かったと心底思っている。なにせ入学式直後だから、座席も出席番号順。俺は『矢口』だから順番がメッチャ後ろで、座席も右端になった。これで左隣と険悪になったら、席替えを迎えるまで最悪な雰囲気になるところだった。
それに、うのきちゃんはそこそこ可愛い。でっかい丸眼鏡に三つ編みと古風なスタイルだけど、なかなかどうして似合っている。今までこういう女の子はタイプじゃなかったけど、いざ隣になってみると悪くはないなぁと思い直した。チョコチョコした動きが小動物みたいで、なんだか守ってあげたい気持ちになる。
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