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すげえ長い時間だった気もするし、一瞬だった気もする。俺はずっと『イヤです』って言いながら、珠樹さんの身体にしがみ付き続けた。
珠樹さんは何の言い訳もしなかったし、抵抗もしなくなった。しばらくは俺にされるがままにになっていたけど……。
久々に聴こえた珠樹さんの声は、うめき声だった。
「痛い、痛い。離して、わかったから」
ハッとして顔を上げたら、珠樹さんは眉間に皺寄せて歯を食いしばってた。ヤッベ、力いっぱい絞めてたわ。
ごめんなさいって平謝りしながら力を抜く。……でも、腕を完全に解くのはできなかった。腕を解いたら、その隙に珠樹さんが居なくなるかもしれない。それが嫌だから、なかなか踏ん切りが付かなかった。
「仕方ない子だね、アンタは。野球だけは嫌だって言ってなかったっけ?」
俺がまごまごしてたら、腕の中で珠樹さんがぐるっと身を返した。生徒会室の引き戸に背を向けてくれた。後ろから抱きかかえてた珠樹さんと、見つめ合う格好に変わる。
「今だって嫌いですよ……離れられないから嫌なんです」
俺がそう言うと、珠樹さんは『なにそれ』と笑う。その吐息が俺の頬に触れる。ひんやりとも、しっとりともつかない不思議な感触。
こちらを見上げる珠樹さん。長いまつ毛は濡れそぼってるようにも見えた。少し充血した瞳にきっと力を込めて、ようやく俺としっかり目を合わせてくれた。
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