第18話 あなたを抱きしめて、そして春を待って。

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 久々に見るうのきちゃんは、なんだか痩せて見えた。でも病的な感じではなかった。無駄なものが削ぎ落されて、研ぎ澄まされた感じ。丸眼鏡の奥の瞳もらんらんと光ってる感じがする。  ヒョロガリくんもたくましくなった気がする。身体つきは相変わらずヒョロッとしてるけど、顔つきが精悍としている。背筋が伸び、胸を張って座る様子は、なんだかヒョロガリと呼ぶのも申し訳ないような貫禄に満ちていた。  全員揃ったところで本題に入った。まずは『長い間、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』と頭を下げたうのきちゃん。いちどヒョロガリくんと視線を合わせてから、数か月ものあいだ連絡が取れなかった理由を語り始めた。  実は、うのきちゃんとヒョロガリくんは去年いっぱいで草野球からいったん離れるつもりだったらしい。高校三年の1年間は受験勉強に専念すると、周囲に約束していたそうだ。  それをチャンピオンシップの試合後に伝えようとしたものの……あんな試合になってしまった。高校最後の草野球がアレでは、あまりに悔しい。どうにかもう1年やらせてもらえないか、ヒョロガリくんと共にうのきちゃんの父親に直訴した。  当然、こっぴどく怒られた。それでもめげずに直談判を続けた結果、『条件付きのOK』を貰った。  その条件が、共通テスト模試だけでなく、帝大模試、英語能力を測るテスト、海外留学に必要な学力を測るテストも追加で受けること。そして、いずれも進学に差し支えないと言い切れる数字を残すことだった。とんでもない勉強量が必要になるのは言うまでもない。
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