第18話 あなたを抱きしめて、そして春を待って。

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 佑蒲さんが車を停めると、中部座席の珠樹さんと桜さんが車から弾かれたように出ていく。そしてうのきちゃんにピタッとくっ付いた。磁石かよ。  野球ハイエナの二人が『ンン〜〜〜♡』と奇声を上げながらうのきちゃんを愛でている。その隙を縫って、ヒョロガリくんがぬるんと後部座席に乗りこんできた。おはよう。相変わらずウナギみたいな動きだね。  久々に見るヒョロガリくんのユニフォーム姿。ちょっと筋肉が落ちて痩せたように見える。今日の打ち上げはいっぱい食べてね。杏仁豆腐だけでいい? ダメです。せめてオーギョーチも食べてください。  うのきちゃんはひとしきり愛でられたあと、野球ハイエナに担がれて中部座席に乗り込んできた。うのきちゃんもまた、ちょっとユニフォームがダブついてる。撫でられ頬を擦り寄せられ好き放題されていたのも合わさって、まだグラウンドについてもないのにヨレヨレだった。 「おはようございます。今日からまた、よろしくお願いします」  車に乗り込んできたうのきちゃんは、恭しく頭を下げた。そしたら珠樹さんと桜さんが『ンン〜〜〜〜♡』とまた奇声を上げてうのきちゃんを可愛がり始める。うのきちゃんばっかり構われるのも可哀想かなって思って、俺もヒョロガリくんを撫で撫でしようとしてみた。おもむろにバッグを置かれて距離を取られた。ひどいや。 「よし、行こうか」  左右を確認して、佑蒲さんが車を出す。このあと蓮沼くんも拾ってからグラウンドに向かう。バイト上がりの雪も職場から直行するらしい。久々のフルメンバーですな。  今日も賑やかになるぞ。思いっきり、みんなで楽しんでやろう。  例に漏れずダブルヘッダー、相手はお馴染みバイキンマンズ。期待でワンボックスカーをボンボンと揺らしながら、俺たちの聖地・多摩川緑地へと向かった。
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