第19話 想いだけでは、どうにもならなくて。

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「リキむなって! ストライク優先で来いよ」  雅さんは胸に構えたミットを揺らすような仕草で、『ここに投げろ』と示す。キャッチャーからしたら、ピッチャーが大荒れよりは打たれてくれた方がまだ楽だわな。  でも、羽田さんはそれどころじゃなさそう。雅さんからの返球を受け取ると、右肩をグルグルと回す。表情がいっきに歪み、歯を食いしばっていた。  ほーら、肩を痛めた(やらかした)。アームスローは上手くいけば球威が出るけど、身体の連動がズレると肩周りの負担が大きくなる。全盛期ならまだしも、まともに投球練習も筋トレも柔軟体操も積んでないヤツができる投げ方じゃねえよ。  しかもギリギリの到着だから、準備体操も不足してんだろ? なおさら身体が硬いんだもんな。車の運転手もコイツだっけ? じゃあ自業自得以外の何でもないな。雅さんの言いつけ守って早く来てれば、こんなことにはならなかったはずだ。  結局、井川さんにはフォアボール。羽田さんの腕が露骨に振れなくなって、変化球が全部垂れた。これで1アウト一、二塁。  うーん、面倒くさいことになったなぁと思いながら打席に向かう。ドカンと一発打って引導を渡した方がいいのか、それともゲッツー打って終わりにしてやった方がいいのか。普通に考えたら後者なんだけど、内野陣が普通に暴投とかしそうなんだよな。
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