第19話 想いだけでは、どうにもならなくて。

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 5回表。先頭打者の俺がペコッとレフト奥の林の向こうまでかっ飛ばし、1点追加した直後。  次打者の珠樹さんは2球選んだ後、フォークを打ちあぐねて2球ファール。カウント2ボール2ストライクからの5球目。  フォークを意識させておいて、最後は真っ直ぐ。雅さんの意図がよく分かる組み立てだったけど……内角高めストライクゾーンギリギリに抜けてしまった。この場合は外角低めか、真ん中高めのボール球じゃないとファールで逃げられてしまうから意味がない。案の定、珠樹さんはなんとか反応してバットの根っこに当てた。  フラフラっと上がった打球は1塁側のファウルグラウンド。よっぽど強い風でも吹かない限り、多分フェンスを越える当たり。大師球場は草野球場にしては広いってだけで、普通に考えたらやっぱり狭いからな。  でも、ファーストが懸命に打球を追いかけてる。他に目もくれず、打球だけを見て、一目散に走り出してしまった。 「追わなくていい、行くなって!」 「危ない! やめろ!」  雅さんと佑蒲さんが同時に叫んだ。俺たちのベンチ(さんるいがわ)からも『止まれ』と声が上がったし、俺も同じことを叫んだ。  でも必死に打球を追いかけるファーストの耳には届かない。スピードをどんどん上げながら、フェンスに突っ込んでいった。
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