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外履きに履き替えている時のことだった。俺の下駄箱に入れてたサンダルをポイっと放り投げながら、母さんがボソリと切り出した。
「正直、『なんも決めてない』くらいのことは言うと思ってたよ。それでも仕方ないかって、腹は括ってたんだけど」
「……もうちょっとでいいから、実の息子を信頼してくださいません?」
「そうだね。悪い悪い」
母さんは後ろから俺の頭を鷲掴みにしてきた。一瞬ヒッてなったけど、髪の毛をグシャグシャにかき混ぜられてるだけだった。『あ、これ撫でられてるんだ』って理解したのは、母さんが手を離してからのこと。
「偉い」
母さんはそれだけ言うと、スタスタ歩き始めた。こっちを見ようとはしなかった――でも、弾むような足取りと、ハンドバッグを肩に担ぐ仕草から、ひたすらに上機嫌であることは分かった。
ま、母さんも心配だったってことだよな。息子がプー太郎なんて、腹括るとかそういう問題じゃねえもん。……2週間くらい前まで何も考えてなかったのは事実だけど。
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