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反射的に振り返って見上げた彼の顔。
ニヒルな笑みを携えた、彼の瞳の奥の奥…。
「…悪いが悪魔は気が短い。」
「…っ、アラ…」
「この…クズ、懲らしめても…いいよな、紗羅?」
愛らしいはずの黒目は、今だけは何もかも吸い込むブラックホールのように恐ろしく。
スッと顔の横に差し出された長い指が、不気味に変形して風を起こした。
…バタバタバタバタ、
「…うわ、なんだ…急に!」
「きゃ…窓を早く閉めて…」
靡くカーテン、ガタガタと突風に煽られたような激しい音を立てる窓。
それの元凶は自然界の風などではなく、この部屋の中にいる悪魔のせいだと知っているのは…私だけ。
ダイニングテーブルさえもガタガタと揺れ始め、アランがクッと第一関節を曲げた瞬間、弟の飲んでいたミルクが不自然な方向に倒れた。
…カシャン…っ、
「…うわ、ぁ…っ、」
床に散らばるのは白の液体と窓からの光を受けて煌めくグラスの破片。
もろに股間で液体を受け止めたため、弟の着る制服のチェックのスラックスは無残にも大きなシミを作る。
私は、といえば…、
グラスが床にぶつかる直前、アランに抱えられて後方に移動したため水滴ひとつすら飛んでいない。
「うわ、くっせぇ…、さいっあくだ!
か、母さん…!代わりの制服持ってきてよ…!」
「えー?この間クリーニングに出しちゃったのよぉ?」
「そんなぁ…!」
朝の忙しい時間帯に訪れたイレギュラーに、騒がしく会話を交わす母と弟をポカン、と放心状態で見つめる私。
「クククっ、…どうだ、いい気味だろう?」
「…っ、」
耳元のすぐ近くで聞こえた楽しげな声。
振り返れば、得意げに笑って私を見つめているアランの姿。
「ほら、…紗羅、こんな奴ら放っておいて、逃げるぞ。」
「…え、…わ、ちょっと…!」
背後からお腹のあたりに腕を回されて連行された私は、慌てふためく母と弟を尻目にリビングを退散することになった。
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