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ベッドから起き上がった悪魔は裸の上半身をこちらに向けて「ふーん?」と小さく唸る。
「そのネックレス。嫌いなはずなのになぁ。こういう時には使うのか。」
「…は?なんで、そんなこと、」
「知っている。お前のことなら…なんでもな?」
ニヤリと笑った悪魔が目の前に手かざす。
ゆっくりと指の関節を曲げ、グルッと手首を返したその瞬間、
「…へ、?」
「そんなものは、燃やしてしまえ。そんな鉄になんの意味もない。」
私の手の中でみるみるうちに黒くくすんでいく十字架は、あっという間に溶けて、ただの黒い鉄の塊になった。
「な、何するのよ…」
「お前こそ、いい加減にしろ。あまりふざけていると俺は傷ついてしまうぞ?」
再びゴロリとベッドに寝転がり、拗ねた瞳をこちらに向けるそいつ。
もう、抵抗しても無駄かもしれないと理解し始めた私は、手の中の燃えかすを床に投げ捨てると、徐に口を開いた。
「…あんた、誰なの…」
再度、静かな室内でひっそりとそう尋ねれば、
「ああ、まだそんなに寂しいことを言うのか、紗羅」と憂げに瞬きを重ね、それから…
「…ずっとそばにいただろ…?
あーくん…またそう呼べよ、紗羅」
「っ、」
“あーくん”
彼はそう口にした。
もう居なくなってしまったはずの彼の名を…
私が守ってあげられなかった、彼の名を…
彼と同じ漆黒の瞳を持つこの男は…間違いなく口にしたのだ。
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