【 黄 】

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【 黄 】

「わ、分からない……。いつまでだろうね……」  私は誤魔化すように、そのルイザの言葉にお茶を濁した。  温かい紅茶を一口飲んでから、今度は黄色のものをポトリとその紅茶へと落とす。  すると、またそこからプクプクと小さな泡が出てきた。 「もう、3年だよね……。もうそろそろ新しい恋でも始めてみたら……?」  ルイザは私に気を使いながら、作り笑顔でそう言った。 「そうだ! もう卒業もしたんだし、レンタルDVDでも借りて、気分を変えて、部屋で恋愛映画でも見ない……?」  ルイザは続けざまに、私にラテンのノリで誘ってくる。 「う、うん……。もうちょっとだけ、待ってみる……」 「そ、そうか……。じゃあ、私先に部屋へ戻ってるね……」 「うん、ごめんね。ルイザ……」  贅肉とは無縁と言わんばかりのセクシーな体つきをしたルイザは、スッと席を立つと、一度振り返り左手を私に振りながら、このカフェを後にした。  ふと、窓の外を見ると、いつの間にか外は雨が降っており、傘をさしている人の姿も見られる。  通り雨だろうか、先ほどまで顔を出していた西欧の陽気で眩しい太陽が、いつの間にか恥ずかしそうに隠れてしまったようだ。  私は左手で頬杖をつきながら、右手でカップに入った紅茶をスプーンでクルクルっと回した。  すると、カップの底にわずかに残っていたものが、スプーンと一緒に褐色の中で回る。それと同時に、あの懐かしいほのかに甘い香りが、白いカップから漂ってきた。 「もう、私のことは忘れちゃったのかな……」  客が私以外誰もいなくなった店内で、とても小さなひとりごとが、思わず口から漏れた。  4年前、18歳の頃。  私と彼は、このポルトガルのポルトへ一緒に留学に来た。  その時、初めて彼に会ったのだけれど、同じ日本人ということで、すっかり意気投合して、私たちふたりがカップルになるのに、時間もそれほどかからなかったように思う。  とても楽しかった。  そして、とても幸せだった。  でも、あの出来事が、ふたりを遠ざけてしまったんだ。  そう、先ほどルイザが言っていた、彼の生まれ故郷の福島でのあの地震。  彼が福島へ戻った時に、運悪く、また大規模な地震が起きてしまった……。  ネットニュースで、彼が行方不明者リストに載っていることを知った。  それ以来、彼には、もう3年も会えていない……。  彼が日本へ旅立つ時、私に言った言葉。 「日本から帰って来たら、また、このカフェで、フランセジーニャを一緒に食べよう……」  そう彼は、私に約束してくれた……。
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