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【 青 】
右手の人差し指と親指で挟んでいた青色のものをポトンと落とす。
すると、褐色の液体の中へ、それはゆっくりと落ちて行った。
プクプクと小さな泡が、一列に綺麗に並びながら、上に上がって弾けている。
その泡を一人静かに眺めていると、向かいに座るルイザが口を開いた。
「ミッツ、見てごらん」
ルイザが指さす方を見ると、このお店の中のテレビが、とある国の戦争のことを伝えていた。
平和を訴える人が、異国の言葉で何やら見たこともない文字の紙を持ちながら泣き叫んでいる。
その背景の奥の方には、私たちに見せられないものなのか、少しどす黒いモザイクがかかったものが見えた。
今、この遠い国で起きていること……。
「ミッツの国も大変だったよね」
赤茶色のロングヘアのルイザが、私の祖国のことを気に掛けてくれた。
私の祖国、日本で起きたあの未曾有の大地震のことだ。
長い睫毛をパチパチさせながら、ルイザが私の顔を心配そうに覗き込んでくる。
「もう、大丈夫だから」
私は顔を上げると、その作ったばかりの笑顔をルイザの方へと向けた。
ポルトのフランセジーニャが有名な小さなお店『カフェ・サンティアゴ』。
今、このお店には、ルイザと私しかいない。
窓際のテーブル席に座る私たちの元に、西ヨーロッパの眩しく元気な太陽が、このお店の大きな窓から燦々と降り注いでいた。
このお店自慢のボリュームあるフランセジーニャを、私は一口パクリと口へと運ぶ。
パンと肉とチーズと半熟卵が、口の中でまるで、この国の民族舞踊『ランチョス・フォルクロリコス』を踊っているようだ。
大きな碧眼をしたルイザとは、シェアハウスにルームメイトとして、この地で一緒に暮らしている。
なぜ日本人の私がこの国にいるのか……。
その時、タイミングよくルイザが私に問いかけた。
「ねぇ、ミッツ。いつまで、彼のことを待つつもりなの?」
その言葉に、私の小さな体が、この異国の地、ポルトガルにあるカフェの一角で、ピクリと小さく反応した……。
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