其の壱

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 ですから、母を悪く言わないでくださいませ。  言いながら、葉月と呼ばれた女性は寂しげな笑みを浮かべてうつむく。  どうやらこの家にも、様々な問題があるらしい。  吾狼はそんなことをぼんやりと思っていた吾狼であったが、ふと葉月がこちらを見ていることに気付き、慌てて居住まいをただした。床に片膝をつき、深々と頭を垂れる。 「申し遅れました。自分は圷城嫡男……」 「吾狼殿ですね。話は弟から聞いています。未だ慣れぬのに、弟が無理難題をもうしつけたようで済まないと思っています」 「い、いえ、決してそのような……」  美しい葉月から柔らかな笑みを向けられて、思わず吾狼は耳まで真っ赤になる。そんな彼の脇腹を、双樹は意地悪く小突いた。 「どうか、ここを我が家と思ってください。何か不明なことがあれば、双樹に何でも聞いてくださいね」 「葉月様の仰せとあれば、何なりと。例えこの生命にかえましても」  真面目くさって深々と一礼する双樹。一瞬の沈黙の後、三人は誰からともなく笑い始める。  その楽しげな笑い声と裏表を気にする必要の無い他愛のない会話は、一向に合議の場に現れない双樹の様子を見に来た朧が乱入するまで続いていた……。
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