ライス・ロード 二

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 据え置かれた真っ青な長方形の筐体(きょうたい)。左部には黒い受話器が備え付けられているが、今は重たげに台の下まで垂れ下がってしまっている。  魁は深く一歩踏み込み、ぶらぶら揺れる受話器を掬い取った。それを筐体の側面に掛け直してやるのと、背後で扉が閉まるのが同時だった。 「」  右耳の近くで大きく聞こえた。  魁は顔をしかめて辺りを見た。  が、女の姿はない。ボックスの中にも外にも。腹でもきつく締めているような、妙に引き()れた女の声が聞こえるだけだ。 「」 「……何を?」 「。お母さん。お父さん、」 「どいつもこいつも……。もう寝てんだろ」 「お母さん」  姿がないのに耳元で声が聞こえるというのは、思えば電話しているのと同じ状況である。が、それよりよほどはっきりと聞こえる。 「電話しろってことか? お前んち電話あんのか? あったとしても知らねぇよ番号」  不満げに受話器を取る。  と、突然、それとは反対の腕がグイと大きく持ち上がった。 「うおっ……」  不格好に広げたままの大きい右手。その人差し指がガツガツと筐体を突いている。  右上に丸いダイヤルがあった。そこに到達すると、魁の意思と全く関わりなく、知らない番号をジャコジャコ入れていく。 「気持ち悪ぃなお前! 口で言えばいいだろ!」  悪態を吐いているうちに回し終わってしまった。自由を取り戻した右手を忌々しげに振る。  と、その時だった。左耳に当てた受話器から弱々しい応答が聞こえてきた。
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