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鬼瓦京作
車はライス・ロードを抜け、千葉への道をひた走る。
いつしかじっとりとした暑さは失せて、雲も薄れ、また満月が現れた。魁が知る月と同じ色形だった。
「……幽霊でも見たみたいな顔をしているね」
後部座席から涼やかな声が聞こえた。ハッと後写鏡を見上げれば、黒曜石の隻眼とかち合った。魁は大きく脱力した。
「はー……やっと起きたじゃん親分……」
「ごめん。運転させておいて」
「そりゃ別にいいけどよ。俺、結構騒いでたのに、親分が全然起きねぇの珍しいなと思って」
「ああ……夜中にあの道を通るといつもこうなんだ」
「ふぅん。あそこの幽霊と関係あんのかな?」
「幽霊。本当に見たのかい?」
「見たー」
「そう……」
鬼瓦京作は窓の外に目をやった。少し開いた隙間から柔らかい夜風が差し込んでくる。
「ごめんね、魁君。幽霊が出ることと併せて、先に言っておくべきだったね」
「いいよ。幽霊のことは出かける前に聞かされてたし」
「ん?」
「はー……。やっぱり俺、親分と話すのが一番いいなぁ」
「そう」
「あー疲れた……。幽霊ってだめだな、全然会話が成立しねぇんだもん。こっちが何を言っても納得しねぇし、言うこと聞いてやっても何故かキレてくるし……。そもそも、言ってることが聞き取り辛ぇんだよなぁ。あっちも俺の言うことわかってねぇのかな?」
「そんなに真面目に取り合ったのかい? 無視して通り過ぎてしまえばよかったのに」
「いや、そういうわけにもいかなかったんだよ。今朝、あいつにちょっと頼まれてたから」
「あいつ?」
「滑舌の残念なあの先輩がさ。俺に車の鍵渡しながら、何か色々言ってきたんだよ。今日はいつにも増して滑舌絶不調だったな……まあ、半分くらいは聞き取れたけど」
「……米中君のことを言っているのかい?」
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