鬼瓦京作

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 その時、前方に珍しく対向車のライトが瞬いた。  道の真ん中をふらふらと、それもとんでもない速度で向かってくる。  魁は警笛を鳴らすのを忘れた。だが、手元が狂うことはなかった。対向車が大きく右によろけた機を逃さず、ハンドルを切って(かわ)し、アクセルを踏み込んで走り抜ける。  京作が窓に頭をぶつける音がした。 「あれ? 鈍臭(どんくせ)ぇな親分」 「米中君はこんな運転しなかったからね……。やれやれ、早く君のハンドル(さば)きに慣れなくちゃな」 「……なんで俺、米中が死んだって忘れてたのかな」 「まあ、彼は実家に帰っていたし……君は知らせを受けただけで、死に顔も見ていないから、実感が湧かないのかもね」 「親分は通夜行ったんだっけ」 「ああ。ゆっくり休めって言っておいた。君も来ればよかったのに」 「いや、けど……米中の家、堅気(かたぎ)だろ。親分はともかく、こんな顔したデケェ奴がいきなり来たら驚くだろ? だから、墓に納まってから会いに行こうと思ってて……」 「でも、行くべきだったね」 「……怒ってんのかな。だから出てきて、あんな訳わかんねぇこと言ってきたのかな……」 「知らないよ、幽霊の考えてることなんて」 「……」 「……僕も身に覚えがある。生前とても善良だった人が、幽霊となると、何故か僕達を危険な道へ導こうとする……何も変わらない穏やかな笑顔、優しく爽やかな口調のままで……」 「……親分?」 「身近な人が死んでしまったら、化けて出られる前に、さっさと一方的にお別れを言うといい。知人の幽霊を見たくなければ、それがコツだよ、魁君。……」  魁は物珍しそうに後写鏡を眺めた。  京作はぼんやりと空を見上げていた。春の月に透かされた雲が、淡い紫色の光を帯びている。
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