米中進 一

1/2
前へ
/14ページ
次へ

米中進 一

「ライス・ロードには幽霊が出る」  今朝方、(さきがけ)に車の鍵を渡しながら、米中(べいちゅう)(すすむ)はそう告げた。  米中は、鬼瓦組で最も自動車の運転が堪能で、鬼瓦京作の専属運転手のようになっている。  顎はエラが張って四角く、下瞼は盛り上がっていて、決していい男ではないが声だけはよかった。だが、残念なことに非常に滑舌が悪く、結局美声も台無しだった。  性格は柔らかい。発言はよく聞き取れずとも、まず間違いなく悪いことは言っていない。歳の差が程良いのもあり、ヤンチャな魁の兄貴分のような役割を任されてきた。彼に運転技術を仕込んだのもこの人物である。  長く共に過ごした甲斐あってか、魁には米中の言っていることが大体わかった。  が、この日に限ってはなぜか、うまく彼の言葉を掴み取れない感覚があった。何度も聞き直してようやく、「幽霊が出る」と言ったのだと理解した。  また、他に辛うじて聞き取れたのはこういうことだ。 (前提として、米中は虚弱体質で、しばしば風邪を引いている。この日も体が熱っぽいだか何だかで)とにかく、京作にゆっくり休めと言われたらしい。これにより、魁に運転手の御鉢が回ってきたのだ。 「……なんでンなこと言うんだ?」  と、魁は首を傾げて米中を見下ろした。今聞かされたばかりの幽霊のことを言っている。  以下、米中の言葉を魁なりに訳すとこうだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加