ライス・ロード 一

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ライス・ロード 一

 果たして、(さきがけ)が車を走らせていると、突然前方に小さい人影が飛び込んできた。 「!」  反射的にブレーキを踏む。  手を繋いだふたりの子供。――  それを目にしたのは一瞬だった。右の真っ暗闇から生じ、左の真っ暗闇へ飲まれていく、その刹那にライトで照らし出されたに過ぎない。  とうにその姿はなかった。  が、停止した車内で魁は、瞼に焼き付いた像を何度も反芻(はんすう)していた。  本当に幼い姿だった。姉は五歳かそこら、妹など三歳くらいではなかったか。……  何の(おぞ)ましさもなかった。  血を流しているでも、身体を損なっているでもない。ただ走って道を(よぎ)っていっただけだ。幽霊だと前もって聞いていなければ、なぜこんな夜中に子供が……と、誰もがまず率直に驚いてしまうことだろう。  笑っていた。互いの姿と、向かい側の畑だけを見ており、魁のほうには全く注意を向けなかった。  それを罪とも思えぬ無邪気さだった。小さい手を握り合い、細い足を動かし、きらきらした目を弦月のようにしていた。…… 「……」  ぐったりとハンドルにもたれかかった。  重ねた両腕を枕代わりに、ドアガラスの向こうを眺めている。姉妹の駈けていった左の畑だ。  黒々とした闇が広がって、ごく手前の方しか見えないが、まだ野菜は芽を出していない。あるいは種も蒔かれていないのかもしれない。  よく耕された土は、柔らかいだろうに、小さい足跡のひとつも残されていなかった。
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