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ライス・ロード 二
左手にゴルフ場が見えてきた。
ここに来てようやく乾いた稲田の群れが途切れた。
街灯もぽつぽつ立っているが、灯されているわけではない。広大な青いコースが見えるでもない。だが、蹲る真っ暗闇に近づくにつれ、「何かいる」という直感は太くなっていった。
その気配を無視はしなかった。魁はハンドルを切り、ゴルフ場に近寄った。車体を左に回すことで、丸いふたつのライトも同じように前方を撫でていく。
その最後、電話ボックスがひとつ照らし出された。中にいる紺色のワンピース姿の女も。――そこでぴたりと車を止めた。
「……」
魁は腰を浮かし、ズボンのポケットをまさぐった。そして静かに後部座席を振り返った。鬼瓦京作は変わらず眠り続けている。
ドアを開け、ライトを浴びながら、ずんずんと電話ボックスに向かった。
それでもガラスの中の女はこちらを見ない。ウェーブの髪と、ほっそりした背すじ、内股気味のアキレス腱を向けたまま、身動ぎもせず電話に取り付いている。
「明るいのが嫌とかねぇんだな……」
それだけではない。女の姿は、霞んでいるだの透けているだのもなく、何か拍子抜けするほどありありとよく照らし出されていた。
が、魁が扉に手をかけ、開ける動作と共に、その姿は忽然と見えなくなった。乗ってきた車には手動のワイパーが付いているが、ちょうど、それで雨粒を拭った時みたいに綺麗に消えてしまったのだ。
「……」
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