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今日から僕は天使だ。死んだ者の中から数名選ばれるらしい。と言っても、なにをするのかはわからない。天使なんてものは迷信だと思っていたから。しばらくして、純白の羽が生え、頭の上に輪っかを乗せている人がふわりと自分の目の前に舞い降りてきた。
「君の指導係をする、ウィンクだ。よろしくね」
その男は、天使という名にふさわしいくらいきれいな顔立ち、立ち振る舞い、物柔らかさで驚いた。
「僕は…あれ…」
生前の名前が思い出せない。自分の名前、それだけではなくさっきまで覚えていたはずの年齢、死因、職業など、すべてがわからない。
「ああ。記憶なら消させてもらったよ。記憶があると色々厄介なんだ」
いっけんやさしく、安心するような彼の笑顔は、自分にとって恐怖の笑顔に変わった。
「じゃ、じゃあ…僕の名前は…」
「心配ないよ。今から君に名前を授けるよ」
にっこりとした気味の悪い笑顔のまま、続けて言った。
「アンク。君は今日から"アンク"だ」
"アンク"その名前が妙に自分にしっくりくる。元々の名前じゃないのに。
「じゃあさっそく仕事内容を説明しようか」
彼はコツコツとヒールの足音を立てながら歩きだした。僕は彼についていく。
「これは知ってると思うけど、天使は神に仕えるものなんだ。神は一人しかいない。だからそれを手伝うのが俺らなんだ」
「は、はあ...」
「その手伝い内容ね。まずは、死者整理。死者は毎日来るからね、さっさと整理しないと溢れちゃうから」
「どうやって整理をするんですか?」
ニコニコ笑いながら言う。
「基本は天国だけど...まあ凄い極悪人は地獄かな。あとは天使?ある程度死者を見てきたらああ、この人ならイケるってわかるんだ。そんときに自分の仕事を引き継ぐ。それで、あとは...後ででいいか」
「...」
「最後は浄化ね。たまーに厄介な悪霊とかあるから」
微笑み、一瞬悲しそうな顔をして言う。
「しっかり願うこと。この人が報われるようにってじゃないと自分が悪霊に喰われて死んじゃうから」
とても笑っていうことじゃないことをニコニコという。
「ただ願うだけでいいんですか?」
「天使の力はみんな思ってるより強いんだよ。だから大丈夫」
なるほど、と頷くと共に、自分にできるか不安になる。
「不安かい?」
怖いと思っていた笑顔が、いつのまにか優しい笑顔になっている。
「はい...少し...」
「じゃあ、試験を受けてみようか」
「試験...?」
「これに合格したら、自信もっていいよ」
試験の内容ってなんだろう
「試験はね、僕を祓うこと」
「え...天使って祓え...」
そうすると、段々と彼の頭の輪、羽が黒くなっていった。
「天使にもね、人数に限りがあるんだ。だからへらさなきゃいけない。所謂リストラ」
「...」
驚いて口をはくはくさせていると彼はゆっくりと言った。
「悪魔は元々は天使。天使が堕落した姿なんだよ。今いる悪魔たちは跡継ぎの人が祓えなかったから。君は祓ってくれるよね?」
彼は先ほどの天使のような微笑みとは違い、ニタァとあざ笑うかのような、悪魔のような微笑を浮かべていた。
「わかり...ました...」
この人に...救済があらんことを...!!
「全然弱いよぉ?雑魚だねえ」
先ほどとは違い、もう天使の要素は残っていない。
「すうっはあっ」
深呼吸、そして心から願う。ウィンク、君に来世はとびきりの幸せを。そして、喜びを。成仏してください。
「...消えてる」
「はあっ、はあっ」
「上出来だ。アンク。君のおかげで救われるよ」
「ありがとう...ございます...」
まだ息が整わない。ずっと肩で息をする。
「君にもとびきりの幸せを」
そう言って、彼はまた天使のような微笑みで静かに消えていった。
その日から、僕は色々な人を天使として導いた。
「君にもとびきりの幸せを」
その言葉が妙に心にひっかかっていた。僕でも幸せになれるのかと。それでも、僕はずっとその言葉を大切にしてきた。そんな毎日を何年も過ごした。そんなある日だ。
「...この人」
見た瞬間この人は天使にふさわしい人だと思った。
「...僕も潮時かあ」
その人を天使に任命する書類を書いて、僕は飛び立った。おそらく、今日でこの仕事は終わりだ。何年続いただろうか。意外とあっという間だった。きょとんとした顔の少女の前にふわりと舞い降りる。さあ、最後の仕事だ。
「君の指導係をする、アンクだ。よろしくね」
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