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あれから、先輩の顔をまともに見られない。
相変わらず先輩がモデルになる割合は他の部員より多くて、その度に顔を見てしまわないように気を付けた。
顔を見たら、描きたい以外の欲が出る。
いや、本当は先輩の姿は俺にとってはどこを見ても魅力的で、でも顔さえ見なければギリギリ理性を保っていられた。
だから、後ろ姿の時は有難かった。
小さい頭。刈り上げた襟足と長い首。その首から続くなだらかな肩のライン。白いシャツに浮かぶ肩甲骨。高い位置の腰と、スラリと長い脚。
座ったポーズなら、引き締まった足首やくるぶしも見えた。
「後ろからでも視線って感じんの、知ってる?」
スッと立ち上がった先輩が、ぐるりと作業台を回って俺に近付いてきた。
無意識に後ずさる足がイーゼルに当たった。カタンと音がしてスケッチブックが床に落ちた。
「なに逃げようとかしてんの」
真正面に立たれて目を伏せた。
射るように強い、ほとんど同じ高さの視線を感じる。
欲しくて堪らないのに、絶対に手に入らないものが目の前にあるなんて最悪だ。
もう俺の前をウロウロしないでくれ。
早く早く、早く卒業してほしい。
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