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「今日はデッサンにしよう」  部長がそう言って「モデルよろしくな」と肩を叩いてきた。  まあ、いいけど、と思いながら、美術室の中央に椅子を運んだ。休憩があるとは言え2時間も立ちポーズは嫌だ。  あいつがどこで描こうとしているのか、無意識に探している自分に気付いて唇を噛んだ。  あいつはオレの外側だけが好きなんだ。  そう思うとムカついた。  自分があいつにどう思われたいのか、あいつをどう思っているのか、はっきり言葉にしないだけでもう形は見えていた。  今日はどんな顔してオレを描くんだよ。  そう思って、あいつの方を真っ直ぐ向いて座ってやった。  そんなにオレの見た目が好きなら真正面から描いてみろ。    椅子に横向きに座って、背もたれに肘をかけて頬杖をつき、脚を組んだ。  いつもと同じ真剣な強い眼で、無遠慮にオレを見つめながら鉛筆を滑らせていたあいつの動きが、不意に止まった。  そして目を見開いてオレを見た。    目が合ったのはほんの数秒。  あいつの目元に朱が刺した。  思わず息を飲む。  あいつは慌てた様子で目を伏せた。  あれからあいつはオレの顔を見ない。見ないようにしてるんだと思う。  クロッキーの時も熱心に描いてはいるけれど顔は見ない。  ムカついて背中を向けると、後ろから刺すような視線を感じた。  こいつはどういうつもりでオレを見て、見ないでいるんだろう。  気になって仕方なかった。  卒業まで、もうそんなに長くない。秋になって部活を引退しても「モデルになってやるよ」とか言って、しょっちゅう顔を出した。幸い皆ありがたがってくれて助かった。  あいつだけは嫌そうな顔をしていた。  それでもオレは部活に行った。3年が自由登校になっても、外せない用事がなければ放課後だけわざわざ行った。    あいつに会いたかったから。  煙たがられても顔が見たかったから。  でもあいつは不機嫌に目を逸らす。  卒業したら、会えなくなるのに。  卒業まで、あと10日。  土日を省けば、あと8日。  それだけ経てば、本当にここにオレの居場所はなくなってしまう。
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