小頭はBL

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 建築職人と言っても一派ひとからげではない。高層建築の鉄骨や足場、クレーンや仮囲いなど、規模の大きな作業所を野丁場。個人の住宅、比較的規模の小さい作業所を町場と言う。とび職もその二つに分けられる。鎌倉の今泉で六十年間営業を続ける小松組は町場である。だから町とびと呼称されている。 「おう、終うべえ」  16:30.頭の小松晃が声を上げた。 「頭、半分余ってるけど」  ミキサー運転手の徳増がミキサーを覗いて言った。余った生コンはなるべく現場で処分するよう会社から指示されている。持ち帰ってもゴミになるだけ。それにミキサーの中にへばり付くと掃除が大変である。 「要らない要らない、持って帰って」  計算間違いで1立米多かった。晃は計算が苦手でいつも余る。 「頭、次から俺が計算するから」  余りの多さに小頭の佐藤健司が言った。一カ所で1万円の損失では年間70棟を手掛ける小松組としては大きな損失である。平成に時代が移ってからは地元家主からの発注より住宅メーカーの建売が増えている。地元も世代が代わった、百姓や職人から勤め人に代わり地元の付き合いもほとんどなくなった。地元土建屋よりハウスメーカーに注文するようになった。まだ注文住宅ならいい、建売ではほとんど利益にならない。下手すれば経費倒れになる。 「どうってことねえよ。一万パチンコですったと思えば」  晃に経営の才能はない。先代は長女の尚子と健司に所帯を持たせ、後継ぎとしたかった。しかし大学を中退した晃が実家に戻って来た。そして二代目を継ぐことを約束した。困ったのは先代である。町場職人は世襲制が一般的である。しかし我が子にこんな苦労はさせたくないと願う親方が増えた。出来る事なら市役所勤めでもしてくれたらありがたい。清掃局でもいい、安定した仕事に就いてくれることが親孝行であると考えるようになった。それは厳しい現存競争の中から生まれた値引き合戦である。仕事を取るには他所より安くなければならない。まさに生死を掛けた醜い争いの結果、町場職人の激減に繋がった。町とびの仕事は野丁場のように華やかではない。高層ビルの狭い鉄骨梁の上を歩くようなこともない。木造住宅の基礎、スコップで根切りをして根切り床を突き固める。砂利を敷いてまた突き固め捨てコンクリートを打つ。その上に型枠を立て、基礎コンクリートを流す。  
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