妹からの手紙

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 すぐに終わりそうにない気配がしたので、セリヌンティウスは持っていた食器をテーブルに置くとメロスの正面に座った。 「フレイアはボクの妹だけあって、けっこう闇が深いんだよ」  困ったように目を閉じてメロスは言う。困っているようだがそれでも愛らしい。 「そうなのか?」  半ば上の空でセリヌンティウスが返事をする。 「素質はある」  メロスは目を開け、強い口調で言う。 「素質って……」  なんのことだろうとセリヌンティウスは思った。 「ふつう、兄貴の元カレとわかって付き合うか?」  しかもあんな状況で……と言うのは飲み込む。いくら幼馴染といえ、そこまで言っていなかった。 「それくらい好きってことなんだろ?」  セリヌンティウスはわりとどうでもよかった。恋バナが得意ではない、仕事一筋のまじめな石工なので強く言えなかった。 「ボクなら引くよ。考えてもみろ。ボクが妹の元カノと結婚するってことだぞ」  メロスに珍妙なたとえを出され、セリヌンティウスは混乱した。 「兄弟がいないからわからないが……」  セリヌンティウスは一人っ子だった。兄弟がいても理解できたとは思えなかったが。 「妹に彼女がいたってことで、まずボクはショックを受ける」  真面目な顔でメロスは言う。整っている顔のせいか、真面目な顔をすると、メロスはますます美しくなる。 「ああ……」  セリヌンティウスにはメロスが何の話をしているのかだんだんわからなくなっていた。 「妹に近づこうとしてボクを利用するってことは、ボクのことを好きでもないのにボクに近寄ったってころだろ? まあボクはいいとしても、妹を騙すのは許せないな。妹が好きなら、正々堂々と付き合えばいいじゃないか」  メロスは真面目な顔で言っているが、セリヌンティウスには伝わってはいなかった。  セリヌンティウスはメロスの顔を見ていた。おとなしくしていれば天使のようで、とっくに成人はしていたが人見知りしそうな美少年に見える。しかし、メロスはよくしゃべる人懐こい男だった。 「そんな女に、ボクの大事なフレイアはやれない!」  声を大にしてメロスは言い切る。 「話の要点、変わってるんじゃないのか?」  話を聞くのが面倒になっていた。 「あ、えーっと、その女とボクが結婚するかって話か」  それも違うのではないかとセリヌンティウスは思った。
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