妹からの手紙

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妹からの手紙

 メロスは困惑していた。  故郷の村にいる妹のフレイアからの手紙を読み、眉をしかめている。  メロスは美しい青年だった。  色白で金髪で碧眼で華奢で、ともすれば少年に見えてしまう。  そして、とても足が速い。  二年前までメロスは唯一の肉親であるフレイアと暮らしていた。その頃は仕事もあり、羊飼いをしていた。メロスはフレイアを溺愛していたが、フレイアの彼氏がメロスの元カレだったことがバレ、家から追い出された。  それで仕方がなく村から10里(約40km)離れた王都シラクスに行き、そこで石工をしていた幼馴染のセリヌンティウスの家に居候していた。  シラクスの繁華街から少し離れた石造りの家の隅にあるリビング。丈夫な木でできたテーブルの椅子に座り、その愛らしい顔をしかめている。 「はぁ……」  メロスは深いため息をついた。  そこへ夕食の支度をしていたセリヌンティウスが通りかかる。  セリヌンティウスは一瞬だけ声をかけるのを躊躇した。メロスの食事を直ぐにも出してやりたい。だが、声をかけてもらいそうにしている友に声をかけたらめんどくさそうなことになるのは確実だった。 「どうしたんだ?」  わざとらしさは否めなかった。しかし、クセのある薄茶(ライトブラウン)の髪を後ろでひとつに結わいた長身の男は、自分よりも小柄で、ともすれば少年に見えてしまう幼なじみに声をかけた。彼にはメロスを無視する方が無理だった。 「結婚式があるから来てくれって」  とても暗い表情で言った。 「誰の?」 「妹……」  メロスは絞り出すように言う。 「おめでとう」  セリヌンティウスはふつうに言った。結婚はふつうに考えればおめでたい。  同じ村に住んでいたのでメロスの妹は見たことがあった。でも、話したことはほとんどない。いくら親友の妹とはいえ、親しくもない人物が結婚すると聞いても、それほど心は動かない。 「本気で言ってる?」  メロスは立っている長身の幼馴染を下から睨みつける。 「おめでたいだろ?」  そんな顔で言われる覚えがない。 「相手がアイツじゃなかったならな」  この世の終わるのような顔でメロスは言う。 「まさか?」 「そうだよ……」  セリヌンティウスはメロスのいろいろなことを知っている。 「別れるだろ? ふつう。っていうか、まだ続いてたのか?」  セリヌンティウスは兄を追い出した傷心の妹が新しい恋を見つけ、その相手と幸せな結婚をするのだと思って祝いの言葉をかけていた。 「続いてたから結婚するんだろ?」  メロスは頭を抱えた。  妹のフレイアの旦那になるのはメロスの元カレだった。  元カレだとバレたのも、メロスが目当てでフレイアに近寄り、よりを戻そうとメロスに言い寄っていたところを見られてしまったのだった。  ちなみにセリヌンティウスは彼氏とかではなく、純粋な友である。小さい頃から共に育った幼なじみで親友だった。  メロスの今カレは別にいた。
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