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6時15分。 6000ルクスの白い光が、心地よい朝陽を再現しながら、顔を照らす。 瞼の向こうが明るくなり、脳が覚醒し始める。 その後、ゆっくり起きようとしている身体に、優しいアラーム音が染みていく。 萩原(はぎわら)優華(ゆうか)は目を開けた。 やはり「HIKARI目覚まし時計」は最高だ。 朝陽を模した白い光が、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑え、精神を安定させるセロトニンの分泌を促進させてくれる。 この光のおかげで、前日の仕事がいくらハードでも、いくら睡眠時間が短くとも、きちんと定時に心地よくかつ効率的に起きることができる。 メーカー希望価格26,200円。 アマゾネスで24,000円。 さらに、(株)睡眠改善のモニターアンケートに答えれば2000円のクオカードプレゼントで、実質22,000円。 去年の誕生日に自分へのご褒美として買ったものだった。 それから約1年間、この目覚まし時計は、優華に毎朝、快適な目覚めを提供してくれている。 優華はその光に自分の左手を透かして微笑んだ。 「…………」 しかしその顔は、手入れしていない爪や、乾燥して荒れた指先を見ながら、みるみるうちに曇っていく。 手持無沙汰で寂し気な薬指を見つめる。 ―――去年の誕生日。 社会人5年目の27歳。一つの節目の年だ。 同い年の彼も、そうであるはずだった。 もしかしたら、という予感はあった。 学生時代から付き合っている倉田(くらた)は、大手証券会社に勤めている。 趣味も業種も違うが、気が合って、なんでも気兼ねなく話すことができた。 声を荒げる喧嘩もなければ、心臓を鷲掴みにされるような刺激も、腹を抱えて笑うほどの楽しさもない。 でも気を遣わないその空気が、優華は気に入っていた。 「はあ」 乾いたため息を発しながら、目覚まし時計を消して、その脇にあったスマートフォンを手繰り寄せる。 【LINEメッセージ 1件】 「―――!!」 慌てて開くと、 【ブラショコのチケット取れた?】 「……なんだ。琴音(ことね)か」 その差出人にがっかりしてスマートフォンを枕の上に投げる。 メッセージは小学校からの腐れ縁である琴音からだった。 ブラショコこと『ブラッドショコラ』はチョコレートにヴァンパイアというスパイスを入れて擬人化したアニメで、今、10代を中心にものすごく流行っている。 さらに今時の中性的なイケメン俳優を起用した、いわゆる2.5次元舞台が大人気で、そのチケットは巷では鳥取砂丘でダイヤモンドを見つけるよりも難しいと言われていた。 「全く、しつこいんだから……!」 優華は長い前髪を掻き上げると、ベッドから片脚を下ろした。
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