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「男組」
「男組」と名付けられたテントには、独身の比較的若い年代が住んでいる。10人が、5組、5組の布団をテントの左右に敷き、畳んだ布団の横にサイドテーブル程の大きさの荷物置き。上着は壁際に一列に掛けていた。
ー狭い。雑魚寝ー
そんな言葉が頭を過ると同時に、荷物を握る手に力が入る。僕はその時、サーカスに入団しようなんて考えたことを後悔した。
「どうした?顔が青いよ」
早く入れといわれ、小刻みに震える足で、僕は絨毯敷の床に乗った。
「お前は、入ったばかりだから、玄関にいちばん近い場所ね」
まるで時代劇の刑務所のルールみたいだと思った。しかし、このテントには玄関もちゃんとある。キャンプ用とは全く違う造りだった。しかも中は暖かい。
「そこに荷物を置いたら、ここへおいで。布団は新しいのを用意してあるし、着替えが足りなかったら、俺たちのを着たらいい」
大きな風呂敷のようなものに包まれているのが布団だろうか。僕は、布団の前にリュックを置き、いわれるがままに吉沢さんの座る奥まで行った。
「驚いた?」
「はい、正直」
「うん、そうか。これでも改善された方だよ。俺が入ったのは10年前だけどね、もっと酷かったから。これから更に良くなるように改善するし、落ち込まないで、がんばって欲しい」
「いえ」
頭を振った時、前髪を結ばれていることに気づいた。僕は頭の天辺を両手で隠した。だからか、だから優希さんは僕と目を合わせなかったのか。これではまるで、僕は変態だ。
「それ、どうしたの?」
「あっあの、お婆ちゃんが。っていっても僕の祖母ではなく、このサーカスのお婆ちゃんが、そのハウスと呼ばれている白いコンテナの家に連れて行ってくれて」
「あー、もしかしたら、それは初枝姐さんじゃない?」
「初枝姐さん?」
そういえば、名前を聞いていなかった。しかし、「ねえさん」という年齢とは思えない。
「ここでは幾つになっても、年上の女性は、姐さん」
「それなら、たぶん初枝姐さんです」
「初枝姐さんが結んでくれたの?彼女は少し言葉が乱暴なところがあるけど、人の面倒みのいい、とてもいい人だから」
正座をしていた僕は、そのまま頭を下げた。
「頼るといいよ。俺も、ああごめん。俺は吉沢、君は?」
「ご挨拶が遅れました。僕は、田中朔といいます。もうすぐ15歳です」
「15歳」
吉沢さんは、目尻に皺を寄せて微笑んだ。昔の自分を思い出しているかのようだった。
「きょうは休みで、外出している奴も多いけど、みんなを紹介するから、サーカスの裏道ツアーでも開始しますか」
「はい」
その時、先程の僕の落胆は消え、逆にワクワク感は最高潮に達していた。
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