動物たちのエリア

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動物たちのエリア

吉沢さんが、最初に案内してくれたのは、動物エリアである。吉沢さんの説明では、裏通りのエリアは大きく5つあり、サーカスを正面に見て、向かって右側に、動物の居住スペース。その隣に若い衆といわれる独身男性居住エリア。真ん中が、3っのコンテナがあるエリアで、そこには社長の住居もあり、トイレ、風呂、炊事場もある便利なところだ。その左横が独身女性と、家族持ちの居住エリア、左の隅っこは、、もうひとつの独身男性スペースである。 「ここに入る時は気を付けた方がいい。ボーヤンが外に繋がれているから」 「ボーヤンて?」 「ああ、ごめんごめん。お猿のことだよ。サルは、客がサルで演技が悪いから、ここではお猿をボーヤンと呼んでいるんだ。ほら、あそこに」 吉沢さんが指をさした先には、首輪に繋がれ、木の台で寛いでいる猿が数匹いた。こちらに気づくと牙を出して威嚇している。とっても憎たらしい顔になるから驚いた。 「ここにいて」 猿の傍に行った吉沢さんは、彼らのリードを掴んで、僕を通りやすくしてくれた。その間も猿は、僕に向かって威嚇してくる。台の上で飛び跳ね、尻を向けたり、口を開け、「こいよ、こいよ」って叫んでいる風に見える。僕は猿にもバカにされるんだと、はじめて知った。 「リードが短くても、猿は足を延ばして捕まえに行くから危ないんだ」 「そうですかあ、怖いですね」 僕は振り返り、猿を見た。猿は僕と目が合うと、また威嚇しはじめた。 「ボーヤンは本当に気まぐれ。自分よりも弱いと思うと威嚇してバカにする。でも強いと認識した途端に態度が変わる」 「大丈夫です。僕はバカにされるの結構、得意なので」 吉沢さんは笑って何も答えなかった。何か気を遣わせて申し訳ない。 「あそこに大きなプールがあるだろう。あそこがアシカの家だよ」 「アシカですか、可愛いでしょうね。お猿と違って」 足早にアシカの家に近づく僕を、吉沢さんは制止した。 「アシカも侮るな。この間、飼育員が指を噛み落とされた」 「ええー---」 結局、僕は遠目にアシカを見ていた。アシカの鳴き声は容姿に似合わず全然可愛くなく、身体も大きいので少し怖かった。 「あの、大きなコンテナの中には2匹のチンパンジーがいる。厳重管理されているから、中に入ることはできないんだ。その奥の広い広場があるところに、犬がたくさんいるよ」 そういえば、さっきから鳴き声がしていた。犬と聞いて、少し安心し、僕は犬の広場へ行った。 「かわいいだろう。プードルが8匹と、なぜか柴犬が1匹、ゴールデンレトリーバーが1頭いる。みんなフレンドリーだけど、柴犬の松だけは、他の犬に牙を剥くから、違う場所に、ひとりでいるんだ」 何度も僕を楽しませてくれた芸達者な犬たちは、紛れもなく僕の先輩だけど、態度は、とても可愛いくて、癒しだった。 「最後は象のテントに行くよ」 「象ですか」 心がウキウキする。声はうわずり、足取りも早くなる。もう場所はわかっていた。大きなテントが目印だ。 「開けるよ」 テントを開けると、やわらかい灯りの中に、3頭の象がゆらゆら揺れていた。
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