飛べ!ピーターパン

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飛べ!ピーターパン

それから1週間程して、サーカスは初日を迎えた。母はパートに出ていたし、祖父はぎっくり腰を発症。祖父の世話をする祖母は、もちろん出掛けられず。僕は、ひとりで観に行く決心を固めていた。何事にも臆病で、判断力に乏しい僕が、自分の意思で出掛けることは特にめずらしい。 初日を迎えたサーカスのテントから、爽快な音楽が流れてくる。大勢の人が、テントの外で並び、まるでコンサート会場のようだった。とはいっても観客の大多数は家族連れ。サーカスの周りに展開する露店も賑わっている、そこだけ見ると、祭りのようでもあった。 初日1回目の公演。お小遣いで前売り券を購入していた僕は、木戸に並ぶことはないので、割とスムーズに場内に入れた。色鮮やかな装飾、センスの良い音楽。一歩、テントの中に入ると、一瞬、目の前が真っ暗になる。それは、映画館に入る時の様な、通路を通らなければならないからだ。中と外を遮断しているみたいだ。 「うわっ」 思わず声が出た。3000人は集客できるテントの中はとても明るく、人の熱気にあふれていた。席を案内してくれる係員にチケットを見せ、座席まで案内して貰う。僕は、この日、中央付近にある席の後方部分を取った。事前にチェックしたのだが、アリーナ席だと、空中ブランコの様な、高い場所での演目は見づらい。とはいって左右の席だと、ポールなどが視界を阻む。中央の後方、これが、最高の指定席だと分析した。その予想は概ね当たっていたが、少し後ろすぎたかも知れない。目の悪い僕は、かなり厚めの眼鏡をしているが、それでも視力は弱いので、舞台の袖にいるスタッフが米粒に見える。これでは、舞台上の演目の内容が全くわからないではないか。失敗だった。 満席以上だったので、僕はリュックを胸に抱いていた。いまの悩みは、両側に座る人々の前を、どうやって通り、トイレに立つかということである。 ーさっき買ったパンフレットー パンフェレットを入場前に購入していた。腕を内向きにし、リュックからパンフレットを出し、内容を確認した。 ー良かったー 2時間半の講演には、休憩時間が挟まれていた。これで頻尿気味の僕も安心して演技に集中できる。 周りを見渡す。見た限りでは、ひとりで来ている客の姿はない。家族連れにカップル。定番だ。ステージに向かって右側に丸い格子状の鉄の塊がある。あれは、オートバイショウ用だろう。全体のセットは「ピーターパン」ピーターパンの物語に沿って、演技が繰り広げられるらしい。そうパンフレットに書いてあった。 さあ、いよいよサーカスの開幕だ!
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