act.4  君のその声が届く時。

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 光を沢山取り込む大きなガラスに囲まれたミュージアムのカフェは、どの席からも綺麗に手入れのされた庭園が見えて、そこに(たたず)むオブジェも鑑賞できるようになっている。  この美術館に来るたび、敷地内はどの空間もすべてがアートなんだなと実感する。  レストランに併設するそのカフェに入った瞬間コーヒー豆のいい香りに包まれたけれど、俺はホットではなくアイスコーヒーを注文した。口の中がカラカラに乾いてしまって……。  “悪い。今終わった”  トークイベントが終わり、来場者が順に会場を後にし始めた頃、ほどなくして手にした携帯が震えた。  “すぐ行くから1階のカフェで待ってて”  俺がそのイベントを見に来ていたとは思っていない勇から、終了時間が押したことを慌てるようなメッセージが届く。 (大丈夫。予定時間オーバーしたこと知ってるから)  そんなことを思いながら、自分が会場にいたことはやっぱ黙っていようと考えると同時に、また俺の心拍が上がっていくのを感じながら了解の文字を送った。  指定されたカフェに入り窓際の席に案内されるも、そこから見える鮮やかな新緑もどこか上の空になってしまって、運ばれてきたせっかくのコーヒーも味がよく分からない。  八年ぶり――。  顔見て話すの。  それってすごいよね。  小学校に入学した子が中学二年生になってるってことだもんな。  それほどに長い季節を挟んで、今日勇に逢える。  卒業式を目前にした18歳のあの日。  彼のことを見送ったバスターミナルで目に焼き付けた笑顔をまた見ることができる。  ずっと聞きたかった大好きなその声を直接聞くことができる。    ああ……。  最後に繋いだあの手の温もりをまた感じられるのだろうか。  トークイベントが始まった時みたいに心臓が鳴り始めて、でもそれはさっきの緊張感とはまた(おもむき)(こと)にしていて、胸の奥を中心に身体全体が熱くなっていくみたいだった。  勇に恋をしていた頃と同じ動悸。痛くて苦しくて――甘い。 (俺、今度こそ心臓止まるんじゃないか?)  そう思って、震える息を吐いた時……。 「――湊」  俺の名を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。  どうしよう。  心臓――……。  止まったかも――……。
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