act.2  君という存在が支えとなる。

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 大学卒業後、加藤は市の職員になり今は税務課で働いている。自分が担当している仕事はこの時期ピークに忙しいとのことで、ストレス発散に付き合ってくれと先週俺のところに連絡がきた。 「久しぶりに湊と飲むし、先来てやってようかなと思ったのに、出がけにちょっとさ」 「なに、またケンカしたのかよ」 「何かさあ、買っとくよう頼んでたバターが無塩じゃないとか牛乳が低脂肪じゃないとか言われてよ。もう何だよたいして変わんねえじゃんって思わね?」  なんとも生活感あふれる単語を口にする加藤は、付き合っている彼女と一緒に暮らしていた。 「俺もあんまり料理しないからアレだけど、それってまあまあ違うな」 「えー、そうかあ? 適当に謝ってたらこれで何度目だってブチギレ。そんなんほぼ一緒だっつうの」  ブーブー文句を言っているけれど、その子とは高校の時からずっと続いていて、こいつが彼女のことを大事にしていることは知っている。  ジョッキを傾ける手首には、就職祝いに彼女から贈られたいつもの腕時計があった。 「結婚の話うやむやにしたの、まだ怒ってんじゃないのか?」 「だろうな。女友達に結婚ラッシュ第一波がきてるから焦ってんだろ、たぶん」  そんな話をしている俺たちの所に料理を運んできたしおりさんのお腹を見て “おめでたですか” と声をかけていた加藤が、席を離れる彼女を目で追いながらつぶやく。 「俺自身がまだ全然仕事もちゃんと出来てねえし、腹決まんないんだよ。子供作んのもきっかけにはなんだろうけどさ、なんとなくやっぱ順番通りにしてえし……」 「ああ、まあ。分かる気はする」 「それって古いよな。オレ」 「そんなことないだろ。何かお前らしいわ」  今年26歳になる俺たちだが、正直結婚とか全然実感がわかない。少なくとも俺はまだ考えたこともないけれど、加藤のとこは付き合い長いし、特に彼女にとってはリアルな話なんだろう。  結婚という選択肢がもうチラつく歳になっているなんて、本当に信じられない。就職という一つ大きな選択肢をクリアしたのが、ついこの間のような気がしているくらいだ。  ――本当に時は流れているんだな。  俺の中にはまだ、絵の具が乾く前の絵画のように鮮やかな高校生活の記憶があふれているというのに……。
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