雪ん子の想い出

1/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

雪ん子の想い出

 わたしは、ある想い出を抱えて悩んでいた。いや、想い出といえるのだろうか。わたしの心の中に、いつの間にか宿っていたある場面……。白日夢とか妄想とかとは、あきらかに違う確かなもの。  それは幼いころの想い出。の、はずだ。  わたしは、父さんと母さんの間にはさまれて雪の坂道を歩いている。三人の息が白い煙のようになって、冷たい空気に混じってゆく。坂道をのぼりきると、視界はパッとひらける。  白い野辺。見渡す限り雪が積もっている。人は誰もいない。野辺はまるで、ふたを開けた時の大きなカップアイスのようだ。わたしはうれしくなって、かけだす。すぐに雪に足を取られてころぶ。コートやらスカートやら、長めの靴下が、びしょ濡れになったのがわかる。冷たくて、痛い。ゆっくり上半身だけ起こすと――そこに、雪ん子が立っている。腰まである藁ぼうしをかぶり、赤い半てんに、わらで作った長い靴。  雪ん子は手まねきをして、わたしをどこかに誘う。  どうしてか、ついさっきまで降っていなかったはずの雪が舞っている。静かに……。まわりの音を吸いとりながら落ちて、地面に消えてゆく。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!