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4 心無き抱擁 修正
「時空管理局、スタムスだと……」
「そうだ、時と世界を駆り、世界の治安を守る組織だ」
クリスチアーヌは、さっきまでの笑いは、どこへやら、真剣な表情に戻り、自身の身分を明かした。
「時と世界を駆るって事は、過去にも行けるって事で間違いないな」
俺の心の中に、どす黒い怪物が、醜悪な産声を上げて、這いずりだす。
昔の事だ。幼稚園の時、俺は、あるテレビ番組に登場する、ヒーローが、大好きだった。
友達とも、よくヒーローごっこをして遊んでいたものだ。
だが、俺の大好きなヒーローが、最終回直前で、主人公のヒーローを、裏切ると、
俺の生活は、一変し、道具を隠されたり、仲間に入れて貰えなかったり、するようになったのだ。
それ以来、俺は、正義や、悪と言った言葉が嫌いになった。
そして、中学。ようやく俺にも、親友と呼べる男友達が出来た。
しかし、ある日、俺は、友人を助けようと、学校や、警察に証拠を、持って行ったのである。
だが、事態は、もみ消され……ここから先は、覚えていないが、結局転校する羽目になったのは、覚えている。
現在。俺は、転校先の中学では、家に、引きこもっては居たものの、身体だけは、鍛えていた。高校では、友人達も出来、俺は、楽しい日常をこれから、歩み続けるはずだったのである。この日までは。
「ああ、そうだとも」
俺の変化に気づいていないと思われる、クリスチアーヌの透き通る声が、俺の中の、怪物を、四足歩行から、人間が行う、二足歩行へと姿を進化させた。
「だったら、なぜ、過去に戻らない!」
「戻ったさ。何度も。だが、今が、最良の状態なんだ」
クリスチアーヌの、少し低く、清涼感漂う声が、俺の中の怪物の怒りを、逆撫でする。
俺の中の怒りは、遂に頂点に達してしまった。
「ふざけるな!」
気が付けば、俺は、左の拳を整った美しい顔へ向けていた。
だが、俺の拳は、女とは思えない力で、クリスチアーヌが、右手を使い、顔に到達する
手前で止められる。
「…………」
「――クリスチアーヌ、お前等の責任だぞ……。皆、全て失った」
俺は、急に、全身の力が抜け、地に崩れ落ちる。
家を失い、家族、友達は、皆、虹色の水晶に変わってしまった。
もう、未来は無い。いっそのこと、メタルロウニックの、餌食になろうか。
すると、クリスチアーヌが、俺の身体を、自身の元に引き寄せ、両手を、俺の腰に回し、抱きしめる。程よい大きさの、二つの柔らかい物体が、ローブ越しに、俺の胸元に触れた。
そして、彼女に、抱き留められるまでは、気づかなかったが、身体からは、何物にも例えがたい、煽情的で、それでいて繊細な、清々しい程の清涼感、そして、俺の劣情を誘う、沈丁花の様な甘い香りが漂っている。
「――。本当に、申し訳ないよ、灰生総司君。けどね」
クリスチアーヌは、俺の力の入らない体との距離をさらに縮め、胸を押し付ける。
そして、左手で、俺の腰を抑えながら、右手を使い、俺の頭を二回ほど、撫でた。
「人って言う生き物はね、希望が無いと解っていても、前に進まなくちゃならないんだ」
彼女は、そう言うと、抱き留めていた手をどけて、立ち上がり、俺に立つようにと、身振りで言った。
俺は、クリスチアーヌから、差し出された手を取り、ゆっくりと、立ち上がった。
すると、クリスチアーヌから、耳を疑うような発言が飛び出す。
「そうだ、灰生総司君。私の身体を、十分堪能した、みたいだし、私の頼みを聞いてくれないかな」
「――。えっ……」
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