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シンサモン~英雄悪の誕生
「まあ、いいさ。私の腹に、殴打を加えた事は、無しにしようか。それより君に、受け取って欲しいものがあるんだ」
私は、英雄候補である、灰生総司に、よって、腹に重い一撃を加えられたが、無理もない。
この、終末世界では、人と言う物は、たやすく変わる。
終末世界になるのを、阻止できなかった、組織の人間に当たりたくもなるだろう。
この世には、善悪二元論が、蔓延っていたりすると思うが実際は、そうではない。
この世には、善も悪も無い。立場等の違いなのだ。
お互いが、善を主張し、醜く争う。それが人間の本質なのである。
だが、灰生総司。彼は比較的、善人と言っても良いだろう。
灰生総司が、私の腹を殴った際、私は血を吐き倒れた。
その時、彼は、申し訳なさそうに、捨てられたトイプードルのような表情で、私を介抱し、立ち上がらせたのだ。
私は、可愛らしい大きな、トイプードル君に、特別な、サモンブックを、見せる。
「灰生総司君。これは、サモンブック。全ての世界の全ての英雄達を、召喚できる物だ。
制約はあるけどね」
「クリスチアーヌさん、なんか、この本、蠢いているんですけど……」
「いいから、表紙に触ってごらん。君は、メタルロウニックに、復讐したいのだろう」
灰生総司君。いや、トイプードル君、いいや、私の愛しき英雄候補君は、
まんまと、私の細胞、DNAを使ったサモンブックに触れる。
『Golden Soul! Best match!』
予想通り、私の少し低く、清涼感のある声が、サモンブックから流れる。
すると、灰生総司君の、サモンブックが、少しずつ、太陽の様な輝きを放つ。
そして、黄金のサモンブック、英悪全法全書・偽【ヤルタバオトサモンブック】
が、完成したのだ。
だが、トイプードル君は、サモンブックの表紙に、偽の文字が、書かれているのに
気づいていないようだ。
まあ、いいか。トイプードル君は、少年のように目を輝かせているし。
私は、全ての世界の、全ての頂点に立つ、英雄や、悪が生まれればいい。
そうすれば、その、脅威の元に、人々は団結するだろう。
だが、その存在は、絶対に倒すことは出来ない。
そして、争いが、生まれれば、破壊するだけ。だから、平和になるのだ。
最初、この計画を、行うに当たって、比較的弱い世界を選び、メタルロウニック等の私が創り出した組織、ワールドクラッカーズネットの人間達が、世界を壊滅まで、追いやる。
そして、最後に生き残った人間に、サモンブックを渡し、サモンブックに搭載したAIで、
最強の存在に成れるまで、ナビゲートする。
そして、その計画では、本来なら、誰でも良かった。
だが、この世界の文明の、下調べを時空管理局で、こっそりしている最中に出会ってしまったのである。
モニターに映ったのは、程よく鍛えられた肉体、ワックスで整えられた艶のある太く黒い髪、ラピスラズリを思わせるような、青みがかった、黒眼。灰生総司である。
その魅力に、私は、一瞬気を失いそうになった。
熱い抱擁を交わしたい。
濃厚な口づけを捧げたい。
その男の貞操から、人生、全てを奪いたい。
だが、この計画を実行したからには、恐らく彼は、生きる事が出来ないだろう。
私は、計画を実行に、移す際、灰生総司の事は、諦めようとした。
だが、出会ってしまったのだ。
全てが、終わったように見えたこの世界で。
「どうしたんですか? クリスチアーヌさん」
「いや、何でも。ん、あれは、メタルロウニックじゃないのかな?」
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